仙台地方裁判所 昭和54年(ワ)259号 判決 1980年7月28日
原告
小竹末子
ほか三名
被告
滝村誠一
主文
一 被告は、原告小竹末子に対し金七二万三九八五円及びこれに対する昭和五四年四月一二日から、原告小竹紀郎、同小竹茂子、同櫻井紀美子に対し、各金五五万二六五七円及び右各金員に対する昭和五四年四月一二日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告らのその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、これを二分し、その一を被告の負担、残りを原告らの負担とする。
四 この判決は、仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は、原告小竹末子に対し金二六二万七三〇八円及びこれに対する昭和五四年四月一二日から、原告小竹紀郎、同小竹茂子、同櫻井紀美子に対し各金一七五万一五三九円及びこれらに対する昭和五四年四月一二日から、各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は、被告の負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は、原告らの負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 (事故の発生)
訴外小竹文一(大正二年二月一六日生、以下亡文一という)は、次の交通事故(以下本件事故という。)によつて死亡した。
(一) 発生日 昭和五三年六月一二日午後〇時一〇分ころ
(二) 発生地 仙台市本町二丁目一五番一一号先国道四号線上
(三) 被告車 普通乗用車(ダツトサン。宮五六に七九一〇、以下被告車という。)
運転者 被告
(四) 原告車 原付自転車(スーパーカブ、仙台い三三五三〇、以下原告バイクという。)
運転者 亡文一
(五) 態様 原告バイクの後方から被告車が接触
(六) 結果 亡文一は昭和五三年六月一五日、頭蓋骨骨折により仙台市立病院で死亡
2 (責任原因)
本件事故は、亡文一が自己の進行車線を直進していたところ、被告が先行車を追い越そうとして、後方の安全を確認しないまま原告バイクの前方に出て、被告車左側中央部を原告バイクに接触させ、亡文一を測溝まで跳ね飛ばして起きたものである。
3 (損害)
(一) 葬祭費 一二四万一三九一円
(1) 葬儀関係費 七八万五三九二円
イ 葬儀料 二七万二四一〇円
ロ 通夜費用 一四万二九八二円
ハ 法名葬儀一式 三五万円
ニ 御布施(葬式、火葬用)二万円
(2) 仏具関係 四五万五九九九円
イ 仏壇 四一万八〇〇〇円の内金一三万九三三三円(三分の一)
ロ 石碑 九五万円の内金三一万六六六六円(三分の一)
(二) 逸失利益
亡文一は、本件事故当時、妻である原告小竹末子とともに洋服仕立業を自営し、稼働していたものであるところ、本件事故に伴う逸失利益は次のとおり算定される。
(死亡時) 六五歳
(稼働可能年数) 八年間(七三歳まで)
(収益) 年間 三〇三万五七一二円
(寄与度) 七割
(控除すべき生活費) 右収入の三〇%
(年五分の中間利息の控除) ホフマン式年別による。
303万5712×0.7×0.7×6.5886=9.800.535円(円未満四捨五入)
(三) 慰謝料 九〇〇万円
亡文一は、本件事故当時、年齢六五歳だつたとはいえ、病気することもなく健康で営業に励んできたものであり、本件事故の態様等からみて、精神的苦痛に対する慰謝料として九〇〇万円が相当である。
(四) 損害填補金一二五六万円
原告らは、被告の自賠責保険から、金一二五六万円の支払を受けた。
(五) 弁護士費用 金四〇万円
被告は、原告らに対し未払損害額金七四八万一九二六円を任意に支払わないので、原告らは弁護士に本訴請求を委任せざるをえなかつた。
従つて、被告に負担さすべき弁護士費用は金四〇万円が相当である。
4 (結論)
よつて、損害額合計七四八万一九二六円について、原告らは、被告に対し、各相続分に応じて、原告小竹末子は二六二万七三〇八円、(三分の一)その余の原告は各金一七五万一五三九円(各九分の二)及び右各金員に対する訴状送達の日の翌日である昭和五四年四月一二日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の各支払いを求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因第1項の事実は認める。
2 同第2項の事実のうち、被告車の左側中央部と亡文一車とが接触したことは認め、その余は否認する。
3 同第3項の事実は不知。但し、原告らに自賠責保険から一二五六万円(治療費等を含めた総額は一三三五万六九一〇円)が支払われたことは認める。
4 同第4項は争う。
三 抗弁
1 (過失相殺)
(一) 本件事故は、被告車が国道四号線の三車線目を直進していたところ、亡文一が、原告バイクを運転して国道四号線を三車線目に向つて斜に進入し、さらに、右折すべく、右の方向指示器を上げたまま、左側中央部に急激に接近し、原告バイクの右側グリツプを被告車左側中央部に接触させた結果生じたものである。
すなわち、本件事故は、亡文一が、被告車を先に通過させ、その後から慎重に右折すべき注意義務があるのにこれを怠り、無謀にも被告車に横から急激に接近した過失によつて生じたものであり、被告には過失はない。
(二) 仮に被告にも過失があつたとしても、亡文一の過失も本件事故発生に大きく寄与しており、さらに、亡文一は頭部を保護すべきヘルメツトを着用していなかつた。従つて被告の賠償額の算定にあたつては、大幅な過失相殺による減額を考慮すべきである。
2 (弁済)
被告の自賠責保険より原告らへの保険金支払額は、合計金一三三五万六九一〇円である。その内訳は、死亡による損害金一二五六万円、治療費金七五万二五五〇円(内金五二万三二八五円は仙台市より日産火災への求償分)、看護料二万一八六〇円、諸雑費金二〇〇〇円、文書料金一三〇〇円、休業損害金一万円、見舞金九二〇〇円である。
四 抗弁に対する認否
1 抗弁第1項は否認する。
被告は、右側車線の車に気をとられ、あらかじめ原告バイクに気付くことなく、接近した間隔で速度の遅い原告バイクを追い抜き、同バイクに接触したものである。
2 抗弁第1項の事実のうち、原告らが死亡による損害金一二五六万円を受領したことは認める。
第三証拠〔略〕
理由
一 本件事故の発生
請求原因第1項の事実は当事者間に争いがない。
二 責任原因及び過失相殺について
1 成立に争いのない乙第一ないし第七号証、第九、第一〇号証、第一二ないし第一五号証及び被告本人尋問の結果を総合すれば、次の事実を認めることができる。すなわち、
(一) 本件事故発生現場は、車道全幅員約五〇メートル、片側車道幅員約一四・八〇メートル、片側車道の車線数四車線の国道四号線上であり、付近は事業所地帯で普段の交通量は非常に多い所であるが、事故当時の交通量は、左側から四車線目(第四通行帯)では多かつたが左側から一ないし三車線目(第一ないし第三通行帯)では比較的少なかつた。また、事故当時の天候は晴れで付近の見通しは良かつた。
(二) 被告は、被告車を運転して国道四号線の第三通行帯を、南に向かつて時速四〇ないし五〇キロメートルの速度で直進進行していたが、第四通行帯を除く第一ないし第三通行帯にはいずれも車両があまり見当たらなかつたため、被告は、衝突地点の約三五メートル位手前から四車線方向にのみ気をとられ、ガシヤンという衝突音を聞くまで原告バイクの存在に気がつかなかつた。
(三) 他方亡文一は、本件事故当時、仙台市本町二丁目一五番一五号所在中村スポーツビル内の宮城鋼建株式会社においてのズボンの寸法を計る仕事を終え、仙台市東一番丁通り所在丸善仙台支店へ行こうとして右中村スポーツビル前から原告バイクを運転して国道四号線に入り、衝突地点の付近では、右側方向指示器を点滅させながら、第三通行帯左側を通行していた。
(四) そして、原告バイクよりも進行速度が速かつた被告車が原告バイクを追い越すような形で、両車が接近し、被告車(車長四・二六メートル)の車体左側中央部と原告バイクの右ハンドル握り部分先端とが接触し、本件事故となつた。なお、亡文一は本件事故の際、頭部を保護すべきヘルメツトを着用していなかつた。
2 以上の認定事実によれば、本件事故の発生について、被告には、進行方向右方のみに気をとられ、前方を走行する原告バイクに全く気付かなかつた点において前方注視義務違反があり、他方、亡文一については、ヘルメツトを着用していなかつた点において本件事故による被害を拡大した面もあるとみることができる。
従つて、被告の過失と原告バイクの運転手であつた亡文一の過失との競合により本件事故の結果が発生したというべきであり損害賠償算定にあたりしんしやくすべき過失相殺割合としては、被告が九、亡文一が一とするのが相当である。
3 以上の理由により、被告は、文一が本件事故によつて被つた後記認定の損害の内九割相当額を賠償する責任がある。
三 損害
1 葬祭費等 八〇万円
弁論の全趣旨によれば文一の本件事故死に伴う葬式及びこれに引き続く諸法要、墓碑その他に必要とした諸費用として八〇万円以上であつたことが推認できる。しかし被告に負担させる相当の範囲の額としては八〇万円とめ認るのが相当である。そして右の損害は原告四名各二〇万円ずつと認めるのが相当である。
2 逸失利益 六四六万八八四〇円
成立に争いのない甲第一ないし第三号証、乙第二、第一〇、第一四号証、原告小竹末子、本人尋問の結果及びそれにより真正に成立したと認められる甲第五号証によれば、亡文一(当六五歳)は、本件事故死当時生計を共にしていた妻の原告末子と洋服仕立業を営み、丸善仙台支店から洋服の縫製加工を継続的に請け負い一か年約三〇〇万円位の収入を得ていた健康な男子であり、将来も右の職業を続けていく予定であつたことが認められる。また、亡文一の右収入に対する寄与率は、その仕事内容等から判断して七割とみなすのを相当とする。
右認定事実によれば文一の逸失利益として次のとおり六四六万八八四〇円と算定するのを相当とする。
(死亡時) 六五歳
(稼働可能年数) 六年間(七一歳まで)
(収益) 年間 二一〇万円(寄与度七割)
(控除すべき生活費) 年間 八四万円
(年五分の中間利息の控除) 年別ホフマン方式による。
(210万-84万)×5.134=646万8840円
成立に争いのない甲第一ないし第三号証及び弁論の全趣旨を総合すれば、亡文一の相続人としては、妻たる原告末子と嫡出子たるその余の原告三名とが全員であることが認められる。従つて各相続分(妻は三分の一子は九分の二ずつ)に応じて相続したものというべく、その額は次のとおりである。
原告末子は二一五万六二八〇円
その余の原告は一四三万七五二〇円ずつ
3 慰謝料 計九〇〇万円
前記認定の諸事実及び諸般の事情を考慮し、原告らの精神的損害として、原告末子について三〇〇万円、その余の原告三名について各二〇〇万円を認めるのを相当とする。
なお、原告側は、文一の慰謝料として請求しているけれども、右の如く遺族に認めれば足りると解するのが相当である。
4 損害填補 一二五六万円
原告らが、自賠責保険から一二五六万円の支払を受けたことは当事者間に争いがない(抗弁第1項のその余の支払金七九万六九一〇円は、原告らの本訴請求には含まれていない損害額の填補であるとみられるから、本訴の判断の対象から除外するのが相当である。)。
なお、弁論の全趣旨によれば、右一二五六万円については、内金四一八万六六六七円を原告末子、その余の八三七万三三三三円をその余の原告三名に各二七九万一一一一円ずつ充当されるべきものと認めるのが相当である。
5 差引計算
以上の損害額に対し過失相殺した残りの九割相当額から損害の填補分を差し引くと次のとおりになる。
<省略>
6 弁護士費用
右の認定残元本につき原告らは被告に対し賠償請求ができるところ、被告が任意弁済に応じないため、原告らは原告訴訟代理人に対し本訴の提起と追行とを約し四〇万円を弁護士費用として支払うことを約したことが弁護の全趣旨によつて認められる。しかし、差引残元本として認容されるべき額が前記5のとおりであること、訴訟の全経過からみて、被告に負担させる弁護士費用は、原告末子に対し九万円、その余の原告に対し各七万円計三〇万円が相当である。
四 結論
よつて、原告末子については前記認容残元本六三万三九八五円と右弁護士費用九万円との計七二万三九八五円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和五四年四月一二日から、その余の原告三名については前記認容残元本四八万二六五七円と右弁護士費用七万円計五五万二六五七円及びこれらに対する右同昭和五四年四月一二日から、各支払ずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限りにおいて理由があるから認容し、その余は失当であるから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行宣言につき同法一九六条を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 池田亮一)